15.訴状の書き方(その2) 実践編


たっぷりと一週間も夏休みを頂き、申し訳ございません。
急を要するご相談の方には休み前に対処させていただいたと思っていますが、休みの間にご相談を寄せられた方には大変失礼しました。
きょうからまた復活でございます。

さて、訴状の書き方なんですが、これが驚きます。
裁判なんてものに関係なく暮らしていらっしゃる皆さんが信じられないくらいに簡単に書けると言うことをまず申し上げておきます。
よく履歴書の「志望動機」なんてものに頭を悩ましたりする経験がどなたにもおありかと思いますが、正直に書けるぶんだけ(^^;、訴状の方が簡単でございます。
どれだけ簡単かと言うと、簡易裁判所の場合であれば(「敷金裁判」ならたいていこれですね)、本当は文書にしなくても、口頭で「これこれしかじか」と訴えの理由を裁判所で話してもいいのです。
とはいっても、実際にそんなやつはいない、と。(私もやってみようかと一瞬思ったんですけどね、まあ、やめておきましょう)。
で、地方裁判所でも通用する訴状の書き方になりますが、これは次の四つに項目分けしておけば必ず受け付けてくれます。

1.事件名
2.請求の趣旨
3.請求の原因
4.証拠方法

「事件名」ですが、これはもう勝手に付けてください。
一般的なのは「敷金返還請求事件」ですね。
これは勝手に付けていいのですが、だからと言って「打倒悪徳不動産業社天誅必罰事件」なんてつけると裁判官の心証が悪くなりますし、書きなおしてくれと(恐らく)言われると思いますが。

「請求の趣旨」は、そのものずばり、どんな判決を求めるか、です。裁判官になって書きたいですね。
で、ここで前項で説明したことが生きてきます。
つまり、悪徳大家・不動産会社から請求された金額を相手にしなくても、預けた敷金の金額だけ書けばとりあえず事足りると思います。前項で説明した通り、あなたがそれでは納得できない、と思えばここに請求された金額を書いても結構です。
ただ、その場合裁判所の受付で書きなおしたらどうかと勧められる可能性は高いと思います。

「請求の原因」は、どうして自分がわざわざ裁判をしなければならなかったか、を書くところです。
飲み屋のカウンターで知り合い相手にこれを話すなら長い話になるでしょうが、相手は素面の裁判官。判り易く簡潔に書きましょう。でも、いかに酷い相手かプッシュしておくことも忘れずに。
ちなみにこの欄は、裁判の争点にかかわってきますので、裁判所の受付の人はノーチェックです。たとえどんな常識はずれのことを書いてもこの欄だけは指摘しません。

「証拠方法」はその名の通り、証拠を列挙するところ。
つまり「請求の原因」で書いたことに対して「これこれの証拠があります」とするところで、論文を書くときの「注」「引用文献」の関係にあたります。

基本はこれだけです。
ただ、独特の書式なんてものもありますので、私の訴状を例に見てみましょう


       訴状


                                                         (送達場所)
       〒770・@@@@徳島市@@@@@@@
              電話 0886・@@・@@@@
                  原   告     DAI


       〒862・@@@@熊本市@@@@@@@@@
                  被   告     A子




敷金返還請求事件



訴訟物の価格 十五万一千四百二十円

貼用印紙額        円




    請求の趣旨

一、被告は原告に対し、十五万一千四百二十円を支払え。


二、訴訟費用は被告の負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言を求める。








    請求の原因

一、原告は、後記目録記載の被告所有の住宅に平成三年四月@@@日より訴外Kと共に
  、敷金二十二万八千円を預ける等の賃貸借契約をして(甲第一号証)入居していた
  が、訴外K氏は平成七年に転勤のため転居し、残る原告DAIも平成一〇年七月@
  @@日に転勤のため転居した。



二、原告の退去時に、契約の仲介者である「合資会社@@事務所」社員の立ち会いの元
  で鍵を返却し、無事住宅を引き渡したが、その際に部屋の汚れや破損についての指
  摘はなかった。

  それにもかかわらず、その後に被告は「合資会社@@事務所」を通じて、貸室の清
  掃及び各種工事との名目にて、なぜその工事等が必要なのか説明さえせず五十二万
  七千八百四十八円もの高額を原告に請求してきた。(甲第二号証)


三、原告は被告に対し、電話にて請求の理由を問い合わせたが、被告は、契約時点の原
  状すなわちまっさらの状態に戻すと繰り返すのみで請求の理由について説明がない
  ため、改めて内容証明郵便にて敷金の返還を求める意思を伝えるとともに、被告請
  求の大半には根拠がない旨通告したが(甲第三号証)、被告は請求の根拠について
  は何ら答えることがなかった上、「一方の退去時にもう一方も退去する」などとい
  う虚偽の契約事項を原告に申し向けた(甲第四号証)。このため原告は再度内容証
  明郵便にて誠意ある回答を求めたが(甲第五号証)、被告は原告へ何らの回答をす
  ることもなく、訴外K氏と、契約時の原告および訴外K氏双方の保証人らに再度虚
  偽の契約事項を申し向け、あたかも原告が社会的に無責任な態度を取っているかの
  ように保証人を錯誤させた上で保証人に請求額を支払うよう求めた。(甲第一号証
  及び甲第六号証の一乃至三)その後も原告に対しては被告からの説明など誠意ある
  回答は全くない。


四、被告からの請求の内、畳と建具の取り替えについては、賃貸借契約の「特約」で賃
  借人の負担となっているため(甲第一号証)、原告は、自らの検討の結果、請求の
  内畳と襖の取り替え代金七万三千八百八十円分がそれに該当するものであると判断
  し、これについては支払うことに同意しているものであり、またその旨被告に通知
  している。(甲第三号証)



五、原告は、入居期間である七年余の内、転居するまでの一年余の期間について、賃貸
  契約に反して猫を飼育していたものであるが、これによる住居の損害については、
  網戸一枚の破損がそれにあたるものと自ら認め、その代金二千七百円の請求につい
  ては認めている。(甲第三号証)


六、五以外の住宅内部の汚れの程度は、七年余における日常生活で生じる範囲内のもの
  であり、原告は原状回復が必要な原状の変更などは一切行っていない。またこれら
  について被告からの指摘もない。

  このため、原告は被告に対し、右記述の畳と建具の取り替え、網戸一枚の交換に要
  する代金を差し引いた敷金の残額の返還を求める。





    目 録

  所在 熊本県熊本市@@@@@@@@@@@
  家屋番号 @@@番











    証拠方法

甲第一号証   平成三年四月二十五日作成の賃貸契約書
甲第二号証の一 被告から送付された請求書及び見積書
甲第二号証の二  被告から送付された請求書及び見積書の封筒
甲第三号証の一 原告から被告へ平成十年九月二十二日付で送付した内容証明郵便
甲第三号証の二 原告から被告へ平成十年九月二十二日付で送付した内容証明郵便の配
        達証明
甲第四号証の一 被告が原告へ送付した内容証明郵便
甲第四号証の二  被告が原告へ送付した内容証明郵便の封筒
甲第五号証の一 原告から被告へ平成十年十月十四日付で送付した内容証明郵便
甲第五号証の二 原告から被告へ平成十年十月十四日付で送付した内容証明郵便の配達
        証明
甲第六号証の一 被告が原告の保証人へ送付した内容証明郵便
甲第六号証の二 被告が原告の保証人へ送付した内容証明郵便の封筒
甲第六号証の三 被告が訴外K及びKの保証人へ送付した内容証明郵便




    附属書類

甲号証写し  各一通



平成十年十一月九日

                      原  告      DAI

熊本簡易裁判所御中

まずはじめに.当然縦書きです。
で、最近では珍しいB4袋とじです。
後2年ほど経つと日本の裁判所もA4横書きを認めるそうですが、現時点ではB4袋とじ縦書きか、B5縦書きしか認めていません。
ただし、それ以外は自由ですので、お手持ちのワープロソフトで書きやすい書式を選びましょう(一太郎がお勧めです)。
その際、できれば上の余白(印刷したときの上ですね)は広めに開けておきます。
これは決まっているわけではありませんが、裁判所に提出したとき自分の印鑑や裁判所の印鑑をべたべた押すので、手続き上上部を開けておくのが好まれます。

「訴状」とタイトルを書きます。

次に原告(自分)の住所と名前、被告の住所と名前を書きます。
が、ここでですね、私間違えちゃって、裁判所の方から書きなおしなさいと言われてしまったところです。
自分の住所を間違えたわけではなくて、最近民事訴訟法が改正になったそうで、裁判書類を出す側が、「送達場所」というのを明示しなければならなくなったのです。
というわけで、住所だけでなく、電話番号と、ファックス番号を持っている人はその番号も書いて横に「送達場所」と書きます。
そしてその横に被告の住所と名前を書く(もちろん送達場所なんて要りません)。

次に先ほどの「事件名の表示」

続いて訴える金額。

その次の「印紙」ですが、これは空欄で大丈夫。
裁判所に行って、「これいくらになります?」と訊けば教えてくれます。
で、そこにその場で金額を書きこんで(ボールペンでOK)、裁判所の中にある売店で印紙を買ってきてください。

で、次の「請求の趣旨」ですが、これは遠慮しないほうが言いそうです。
私はじめ「@@円を返還せよ」と書いていたのですが、裁判所の方に「ここは普通、『支払え』で決まってます」と言われてしまいました。
堂々と『支払え』と書きましょう。
次の「仮執行」ですが、これは、相手が一審の判決がでれば、とりあえず相手に判決で認められた金額を払わせることができるというものなので、付けておいた方がいいと思います。
本当は、この他に「@@から@@までの年@分の利子を払え」というのがついたりするのですが、たいした金額ではないし、算定基準も意外に面倒で、大きな裁判になったりするとこの点だけでも争点になったりするのでパスしておきましょう。相手に企業弁護士みたいのがついたりするとそういうところの揚げ足を取られたりしかねません。こう言う細かいところは弁護士さんの領分だということですね。

「請求の原因」は、前にも書いた通り、好き勝手にかくところです。
ただ、書いたことは「(第@号証)」のように説明できる範囲内であることは大切。 要は論文を書くときの要領です。

で、「目録」ですが、これは問題になっている部屋の住所を書いておきます。(なくてもいいのですが、大抵書きなさいといわれるようです)

「証拠方法」
意外と厄介です。
「甲」というのは原告が振る見出し番号です。
もし私が被告なら、全部「乙」になります。
あとは訴状に出てくる順番に番号を振っていきます。
厄介なのは、基本的に一文書に一番号を振らなければいけないと言うこと、
つまり私の場合で言うと「甲号証2」と「3」はもともとは一つの封筒に入った手紙だったのに、ちゃんと@@から送られたものですよ、というために封筒も提出するとなると、別の番号(甲号証2の2とか)を振らないといけないのですね。
以下の証拠も同じです。
ですから、たいした数の証拠を出していないのに、ナンバリングは結構いってしまうのです。

で、それらの証拠を2部ずつコピーして、それぞれの左上に「甲一号証」などと書いていきます(結構面倒)。
そのうちの一部が「付属書類」となり、後の1部は被告の元へ送られます。
もちろん本物は自分で保管します。

訴状自体も2部コピーします。

さあ、提出だ。

(続く)