17.第一回弁論、のその前に


無事訴状を提出すると、その後に裁判所から「呼出状」がやってきます。
これまでの人生、「呼出状」なるものが来るとロクなことはないのが通例ですが、これは文字通りの呼出し。
いつ何時から裁判を始めるのか裁判官が決めた結果を通知してきたわけです。
指定されたその日が都合が悪ければ裁判所に連絡して足度決めなおしてもらうこともできるそうです。まあ、かなり時間にゆとりを持って連絡が来ますので(この場合は約一カ月前)、こちらの都合を遭わせるのが礼儀でしょう。
ただ、この一カ月はなかなか考えます。
第一回目は何が行われるのか。
「罪状認否」・・・なんて民事であるわけないけど、映画で見たような法廷シーンが脳裏を駆け巡って二周くらいしちゃうわけですね、これが。
そんな妄想を抱きながら、一カ月後、飛行機と特急を乗り継いでやってきた熊本です。
(印鑑を忘れずに)
やあやあ懐かしの裁判所よ。
エレベーターに乗って呼出状に書いてある通り、四〇一号法廷へ。
そこには私と大家の対決が・・・・・・・・。

甘かった。

四〇一号法廷前の廊下には、人人人。
ヤンキーにいちゃんねえちゃんに、どぶねずみ色のスーツの若者、その上司、よれよれのジャンバーを羽織ったおっちゃん、中国のバレーボール選手のようなパーマ頭のおばちゃん。
なんじゃこりゃ、と思いつつ出欠をとるために法廷の扉を開けて中に入ると、いきなり行列。
TVドラマそのままの法廷の中に行列ができているではないですか。
再び何じゃこりゃと思いつつ、行列の後ろに並んでいると、結構早く自分の番が来ました。
「敷金裁判のDAIです」というと、書類にハンコを押して、「始まるまで待っててください」とのこと。
どうも自分の番が来るまで傍聴席で待っていればいいみたい。
それにしてもまだ開廷まで三十分以上あったので、廊下に出ました。
あらためて法廷の入り口付近を見ると、貼ってあります。
「熊本簡易裁判所 401号法廷
十時 貸金請求事件・原告@@@金融・被告@@@@
同  貸金請求事件・原告***信販・被告++++
同  貸金請求事件・原告¥¥¥クレジット・被告#####



こんなのがずらーっと十件以上。
いちばん最後に
十時半 敷金返還事件 原告DAI・被告A子
とありました。

ほっとんど、カードにローンにクレジット。それにサラ金。
全国的に名の通ったカード会社の名前もそこここに。
いやー、さすがはこの不景気をチャンスとばかり空前の利益をあげている高利貸し会社(法定金利でも年利四〇パーセントだものね、これを高利貸しと言わずして何という)。
とりあえず貸金回収の一発目は裁判所だよね。国がタダで回収のお手伝いをしてくれるってか。
で、十時になったので、これらの「貸金請求事件」がどのように三十分で一括処理されるのか、興味深々で見てました、傍聴席で。
早い。じっっつに早い。

法廷の書記官が事件番号と件名を読み上げます。
すると貸金会社の社員らしいのが(それも入社2〜3年目って感じだな)傍聴席から原告席に(裁判官に向かって左側)入って来ます。
被告席の方はだあれもいない。
被告がいないのを確認して、やおら裁判開始。
原告の訴えを簡単におさらいして、被告はいないもんだから、即決裁判。
で、お終い。
書記官は次の原告を呼ぶ。
一番多かったのがこのパターンでした。
たまに原告がちゃんと出席していても、裁判官が、
「あなたはこの会社からこれだけのお金を借りましたね」
「はい」
で終わり。

想像以上の流れ作業に少し飽きてきた頃、被告席に茶髪にいかにもだらしなく着こなした(?)ブルゾン、でも気の弱そうなにいちゃんが座りました。
原告は熊本ではTVCMで名の知られた高利貸し。
高利貸しが説明します。
「被告は@@日に当社から七十万円を借りたにもかかわらず、返却せず、当社からの督促も無視した・・・」

ふんふんと聞いていた裁判官。原告にいつものセリフ。
「あなたはいま原告が言ったように、金を借りましたね」
そしてにいちゃんがうざったそうに一言。
「借りてないです」
ベルトコンベアの主任化していた裁判官は、そこで一瞬表情が固まり、次の一言。
「どういうことですか」
「僕、金借りてなんかいないんです」
ここで書記官が
「立って答弁してください」
と柔らかくもキツイ一言。
あわてて起立したにいちゃんは続けます。
「学校の帰りイ(大学のことらしい)、街を歩いてたらア、『ケイタイのモニターしませんか』って言われてエ、
モニターしたら五十万くれるって言ったからア、やりますっていったらア、金借りて、それでエ・・」
「もう少し話を整理してくれないかな」
裁判官の怒り炸裂。
・・・・・・要するに彼は、ケイタイのモニターをすればモニター料五十万円プラス二ヶ月分の通話料が無料になるという言葉を信じて(おいおい)モニター契約を結び、その代わりに「契約に必要だ」という言葉を信じて学生証をその場(事務所らしい)で渡し(おいおい)、その間に(なんと丸一日)、その学生証で金を借りられたというお話でした。
流れ作業を邪魔された裁判官、今度は怒りが高利貸しに向かいます。
「さっきあなたが言った、貸し金契約を結んだというのは本当にこの人だったのですか、顔を見たはずでしょう」
若い高利貸し見習い社員は当然慌てます。
「え、あの、いや、えーと。ちょっとオ、わかんないっス」
再び怒り炸裂裁判官。
「あなたたちはね、相手の顔も見ずに金を貸すんですか!」
返す刀で被告もぶった切る。
「あなた、それは警察に被害届出したのですか」
「はあ、先週。福岡で何人か捕まったって聞いてるんですが・・」
「捕まったの?」
「主犯は逃げてて金は返ってこないって・・
「あのねえ、そんなうまい話を信じるものじゃないですよ、わかりましたか!
とりあえずきょうはここまで。原告、あなた方が出した証拠、本人の筆跡だと主張してましたけどね、今後どうするかもう一回考え直しておくように!」

裁判所と言うのは、勉強になりますね。

私の話よりおもしろいって?

(続く)