6.さらば熊本、こんにちは請求書



ついに熊本での生活を終え、転勤の辞令に従って徳島へと旅立つことになりました。 熊本に赴任して、水俣での2年間も含め7年あまり、結婚して2年ほど過ごしたでしょうか。
23歳から31歳まで、仕事を離れた世界でも心の底から尊敬できる友人、知人に恵まれたこともあり、第二の故郷と言うより、もうふるさとそのもので「転勤したくないな」というのが正直なところでした。
異動の内示から引越しまで二週間、連日連夜の送別会で二ヶ月分くらいの酒を飲みまくり、引越し当日は業者が来ても立ちあがるのがやっとという体たらくで、猫同様何の役にも立たずぼー然と妻と業者さんが立ち働くのを眺めておりましたが、私には一切関係なくてきぱきと引越しは数時間で完了し、ガスも電気も止まったガランとした部屋の中で管理人を迎えました。
例の管理会社のおばさんは部屋をぐるりと見まわし、「どうもお世話になりました」と一言。こちらも「おせわになりました」と妻。
犬の一件でやや厳しく言ったためか、おばさんは私のほうをあまり見ようとはせず、もっぱら妻と話しています。
一ヶ月前、異動がほぼ間違いなさそうなので、妻がこのおばさんに「たぶん引っ越すことになりますので・・・」と電話を入れたのですが、その時の返事が「あ、お隣のせいですか。なんなら他のマンションを紹介しますが・・・」というものだったというやり取りを思い出しながら2人のやり取りを眺めておりました。
最後に鍵を渡すと、おばさん曰く、「敷金はですね、こちらで清算してからまたご連絡しますので」。
そんなものどうせ返ってくるわけはないわな、と私は思っていますから、「はいそうですか」と答えて、住み慣れた部屋を後にしました。もちろん、部屋が汚いなんて一言半句も言われちゃいません。

ところがその後まったく連絡がありません。
阿波踊りの熱気もすさまじい徳島で今度は引越し荷物をばたばたほどいていた頃は、「遅いな、忘れてんのかな」などと話していたのですが、それもそのうち「敷金なし崩しにしてガメたいんだろ」と思うようになり、そしてそれも忘れた頃、それは届きました。

                計算書
  DAI様
  下記の通りご請求申し上げます。
                             捏裂娑恥子

   畳張替え12枚    47、880
   襖の張り替え     26、000
   別紙見積分     453、968
   小計        527、848
   預り金(敷金)   228、000
   差し引き  不足分 299、848

さらに管理会社からこんな紙もついていました。

              記
   書類等についてご意見がありましたら
   家主A子様宛ご連絡下さいませ。
   ×××−×××−××××
   住所は契約書の住所で御座います。
   猶当社は契約を仲介したので連絡している次第でありまして
   最終決済は家主様の方でなさるのでよろしくお願い致します。
                    (原文のまま、驚くべきことに)

引っ越して一ヶ月もとっくに過ぎた夏の終わりです。
その時4文字の漢字が私の頭に浮かびました。

「喧嘩上等」。

(続く)