4.幻の犬を探して(その2)



さてそれから半年ほど経った頃でしょうか。
時期ははっきり憶えていません。
私自身が体験したことではありませんから。
これは当時の同居人、久本氏の身も凍る恐怖の体験であります。

その日彼は休日で、ゆっくりと布団の中で朝寝を決め込んでおりました。
と、そこへ玄関の鍵が開く音に続いて、ドアの開くきしむ音が聞こえてきたではありませんか。
なんだ、とばかりに半身を起こした彼は、
(DAIが帰ってきたのかな)と思ったそうであります。まあ、ごく普通の考え方です。
ところが、自室のふすまを開けた彼が目にしたものは・・・。

見たことのないおばさんがそこに立っていたのです!
「誰だよ!」
実に当然の問いかけであります。
私が暮らしていたのが女性であったなら、悲鳴のひとつも上げているところでございましょう。
彼の話では、そこで一瞬その見知らぬおばさんもひるんだようです。
恐らく、平日の昼間、留守を狙って侵入したのでしょう。
空き巣とにらんだ彼は身構えました。
と、そこでおばさんが一言。
「大家です。犬を飼っているでしょう」

恐らくは攻撃と防御を即座にめまぐるしく展開していただろう彼の頭は思考の方向を見失いました。当然です。これなら「不正な処理をしたので強制終了します」といわれてもやむをえないとみなされるでしょう(^^;。
呆然としている彼を横目に、そのおばさんはすべての部屋の扉を開け、押入れを空けていったそうであります。
そして何もいないと判ると、詫びどころか挨拶さえせずに出ていってしまいました。 フリーズしてしまった彼の頭脳が再起動するにはWin95を再インストールするくらいの時間がかかったのではないかと私は心配しました。

この話を彼から聞いたのは、私が勤務が終わって帰宅した時のことです。
苦情を言ったかって?
いえいえ、そんな事はしませんでした。
だって、相手にするのも恐ろしくって(^^;;
しばらく会社で笑い話の種にさせていただいただけでした。
今考えれば、この時警察にでも届けていればよかったかなとも思いますが、普通そんな事思いつきませんよね。

(続く)