11.暴れ出した大家



 普通交渉がこういう経過をたどれば、社会の常として次の段階は、現実的な交渉に入るものです。「おたくはこれくらい汚していたんだから、それは認めて、このくらいは払ってもらおうじゃないか」「それは一方的じゃないですか、こっちとしては百歩譲ってもこんなものですよ」なんてね。
 ところが次に大家が取ってきた手段は、驚くべきものでした。
 私と久本の保証人にいきなり請求書を送りつけてきたのです。それも何とかの一つ覚えの内容証明で。

『前略
貴家一層の御健勝の事と存じます。
・・・(略)・・・
退去後の補修を致しましたが、契約書には動物を飼育してはならないと記載してあるにもかかわらず、動物を飼育されており、敷金にて差し引いても、不足金、二拾九万九千八百四拾八円が生じましたので請求致しました処、言を左右され、支払いに応じて頂けませんので、請求申し上げます。猶、分割にて御支払いについてはご相談と言う事でよろしくお願い申し上げます』

保証人から連絡があったときには心底驚きましたね。
こちらは逃げも隠れもせず、大家からの連絡を待っていたわけですから。
まあ、私の保証人も久本の保証人も送られてきた請求書と大家の文章を見て、「非常識な人間もいるもんだ、大変だろうけど頑張ってください」と言ってくれましたが。
 私も、ここまで冷静に対処してきたつもりでしたが、さすがに頭に血が上りました。
 これ以上この人間を野放しにしていると、次は何をされるか判ったもんじゃない。
 原因が何にしろ、保証人にも迷惑をかけたことは事実です。
 それに何より、私には守るべき家庭があります。
 自分で解決しなければならないのです。
 私は裁判を起こすことを決めました。

 でも、どうやって?

(続く)